高度経済成長期における社会保険労務士の役割

社会保険労務士資格の誕生は昭和43年。高度経済成長期の真っ只中です。日本経済は新卒一括採用、終身雇用をベースとする製造業を中心に支えられていました。

増え続ける労働者を、法的に保護するために労働基準法が有効に機能していた時代であると言えます。手続き面では、労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険。これらの労働社会保険手続きを適正に処理すべく、国家資格、社会保険労務士が誕生しました。

当時の社会ニーズとしては、まさに労働社会保険の手続き業務の代行が中心でした。

 

IT化進展時代における社会保険労務士の役割

一方で進むIT化の波。ウインドウズを操作でき、一定の労務知識が備わっている従業員であれば、難なく労働社会保険の手続きを行える時代が到来しました。同時に廉価な給与計算ソフトも普及し、社会保険労務士の代行的価値が一気に薄まったのが平成10年前後です。

そこで当時の社会保険労務士は、労務コンサルティングと称して就業規則の見直しと管理を旗印にしました。後述する労働契約法が成立する以前においては、労働基準法を熟知し、就業規則を最低基準に保つ方式をどれだけ知っているかが、社会保険労務士の圧倒的なセールスポイントだったのです。

現在の雇用環境から言えば、到底通用しない考え方です。

 

労働契約法施行下における社会保険労務士の役割

時が移って平成19年。労働契約法が成立します。それまで労働者を画一的に取り扱ってきた風潮が崩れ、個別の労働契約における問題が一気に増加しました。労働条件の最低基準を規定する労働基準法では、もはや個別労働契約への対応が困難な状態に達しました。

そこで、それまでの判例法理を総括し、新たな法律の成立が求められました。そこで出来上がったのが労働契約法です。

この時代の社会保険労務士に求められるのは、顧問先企業に労働関連法の最低基準を合法的に適用するのではなく、個別労働契約における法的リスクをどれだけ回避できるか、というノウハウの蓄積です。

 

具体的には?

仮に労働者Aがいたとします。従来の就業規則型コンサルティングでは、会社のルールを法律の最低基準に保ち、労働者Aが主張できる権利を労働基準法ギリギリに保つのが、顧問社会保険労務士の王道でした。

しかし少子高齢化、価値観が多様化する昨今、この手法では人が集まりません。また定着しません。日本企業は、個々の労働者の特性を最大限引き出しつつ、労働契約を個別に管理していく必要があるわけです。ここでいう労働契約の個別管理とは、採用・配置・教育・命令・配転・退職など、労働者Aの就労中のあらゆる場面のことです。

企業側が間違った対応をすると、即コンプライアンス違反で信用と貴重な経営資金を失います。現代の社会保険労務士が顧問として力を発揮するのは、まさにこの分野と言えます。

つまり、企業側が誤った轍を踏まないよう予防線を張り、リスクある途を歩まざるを得ない時は細心の注意でリスクを回避出来る道を案内する。

そのためには過去の労働判例に精通し、現在の労働契約法の成立背景を徹底的に研究する姿勢が必須であると言えるでしょう。

 

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
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