賞与支給日に退職している社員に賞与支払いは必要?

使用者と労働者

1.賞与 在籍者限定要件は有効か?

賞与支給日にはすでに退職していた労働者A。D社の就業規則では、賞与の支給対象者を在籍者に限定していました。

AはD社に対して、賞与の支給を請求しました。最高裁は、D社の「賞与は在籍者に限る」という規則を認め、Aの訴えを退けました。

2.賞与在籍者要件は正当

大和銀行事件
最高裁 昭和57年10月7日第一小法廷

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①D社では元々、賞与在籍者要件が慣行として存在した
②就業規則への記載は単に慣行を明文化したに過ぎない
③その慣行と記載内容も合理性を持つ
④よって賞与在籍者要件は正当である

3.賞与には将来への期待値も含む

判例は純粋に、「賞与在籍者要件」の正当性を示しています。賞与は給与と異なり、単に労働に対する対価であるとは言えず、将来への期待値も含んでいると言えます。

よって、支給日に在籍しない社員に対しては賞与を支給しない旨の条件を設けることが正当であるとされたわけです。

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電鉄社員が電車内で痴漢、退職金が不支給に・・・

使用者と労働者

1.痴漢行為での退職金不支給は合法?

電鉄に勤務する労働者Aは、他社の電車内で度重なる痴漢行為で有罪判決を受けました。O社は数度にわたるAの違法行為につき、戒告を繰り返していましたが、Aの行為は改まりませんでした。

そこでO社はAを懲戒解雇にしつつ、退職金を不支給に。労働者Aは退職金の支払いを求め、O社を訴えたところ、退職金の3割の支給が認められたという事件です。

2.退職金の3割の支給を認める

小田急電鉄 退職金減額事件
東京高裁 平成15年12月11日

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①退職金には賃金の後払い的要素があり、
②全額不支給とするには、永年の功労を抹消するほどの不信行為が必要である
③職務外の非違行為であるときは、さらに強度の背信性が必要である
労働者Aの痴漢行為は、犯情が軽微とは言えず、
⑤過去3度繰り返され
⑥半年前に逮捕されているにもかかわらず、
⑦O社は労働者Aにやり直しの機会を与えた
⑧それでもAは同じ行為で検挙された
⑨Aが同種の行為を撲滅すべき電鉄会社の社員であることを考えると
⑩永年の功労を抹消するほどの重大な不信行為と認定できるが、
会社の業務とは関係なくなされた事件であり、
⑫報道によって社外にその事実が明らかにされたわけでもなく
⑬O社に現実に損害が発生したわけでもない
⑭よって退職金の3割の支給を認めるべきである

3.懲戒解雇と退職金減額の2つの観点

懲戒解雇における退職金の不支給を争った事件です。裁判所は、「懲戒解雇の有効性」と「退職金の減額(不支給)」の問題を二つの観点から判断しました。

たとえ懲戒解雇が有効とされた場合でも、就業規則上の退職金の減額(不支給)が合理性を欠く場合があるということを示した判例であると言えます。

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不況による退職年金の減額

使用者と労働者

1.経済変動による退職年金減額

P社では退職年金規定により、「経済変動が生じた場合の給付額の減額」を定めていました。

退職年金を受給する労働者Aはこの規定に納得せず、減額部分をP社に請求し提訴。裁判所は労働者Aの訴えを退けました。

2.一定範囲での退職年金減額は相当

松下電器産業 退職年金減額事件
大阪高裁 平成18年11月28日判決

大阪高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者AはP社の年金規定を了承し、受給を申し込んだ
②それに対して、P社は労働者Aに年金証書を交付した
③P社は年金規定を本社に据え置き
④人事担当社員が問合せに応じる業務体制をとり
⑤多数従業員が受講するセミナーを開催し
⑥退職日の2ヶ月前にも同規定の存在を明記した書類を交付した
⑦よって労働者Aは退職年金減額可能性を認識し得る状態にあった

⑧同年金規定の「経済情勢の変動」による減額は、
⑨変更の必要性に見合う最低限度のものであるべきであり、
⑩実際のP社の変更はAらの生活の安定を害するとまでは言えない
⑪よって本件改定は相当である

3.経済情勢の変動と合理性

退職年金の減額が、合理的であれば退職後の労働者にも効力が及ぶとされた判例です。

一般的によく使用される「経済情勢の変動」があった場合でも、合理的な手続きにも続く変更が必要であることを示した判例です。

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労務専門コラム 賃金・賞与・退職金編

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)