会社批判をした社員を窓際族に・・・

使用者と労働者

1.人事権とその濫用

B社で33年間勤務した労働者Aは、B社の新経営方針に意義を唱えたため左遷。課長職を解かれ、受付業務に配置転換されました。

労働者AはB社を相手取り、上記の人事施策が不法行為であるとして損害賠償を請求。東京地裁は労働者Aの訴えを支持しました。

2.退職に導く違法な人事施策

バンク・オブ・アメリカ・イリノイ事件
東京地裁 平成7年12月4日

東京地裁の判決要旨は次のとおりです。

①企業の人事権は雇用契約に基づく、経営上の裁量判断に属する
②その行使は社会通念上妥当性を欠き、権利の濫用にならぬ限り違法とはならない
③しかし労働者の人格権を侵害する違法不当な目的をもってなされはならず、
④業務組織上の必要性とその程度、
⑤労働者の適任性、労働者が受ける不利益を総合考慮する必要がある
⑥受付業務はそれまで20代前半の女性社員が担当しており、
⑦労働者Aに相応しいとはいえない
⑧Aの旧知の来訪者があるため、Aの名誉・自尊心は傷つき、
⑨働き甲斐を失わせ、違和感を抱かせ、
⑩やがては退職の決意を固めさせる違法な行為である

3.全ての場合に人事権が認められるわけではない

判例では、原則として人事権は企業の経営上の裁量に委ねられるとしながら、例外的に違法性を生じるケースを示しています。

具体的には、

・業務上、組織上の必要性とその目的
・労働者の適任性(人事異動の場合)
・労働者が受ける不利益

などの点を総合的に考慮して判断されることになります。

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人事評価面談を拒否する社員を格付けダウン

使用者と労働者

1.成果主義賃金制度下での降級

E社に勤務する労働者Aには、新しく成果主義賃金制度が適用されました。

Aは同時に労働組合員でもありました。Aは同制度下での降給が不当労働行為であるとして提訴。東京高裁はAの訴えを棄却しました。

2.降給理由が不当労働行為に該当するか

エーシーニールセン・コーポレーション事件
東京高裁 平成16年11月16日

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①成果主義評価制度下では人事考課は使用者の裁量に任されている
②しかしそれが組合員であることを理由に不当に評価されるときは、
③不当労働行為として無効である
④会社はAの従前給与を考慮して、当面一つ上の格付けの配慮をしていた
⑤その後Aが低い評価を受けたのは、
⑥Aが上司との面談を拒否し、
⑦面談拒否によって、上司の目標設定にAの意見が反映されず、
⑧元々一つ上の格付けのため高い目標の達成を求められたからである
⑨また同じ組合員の中で高い評価を得て昇給するものも複数あるため、
⑩Aが組合員であることが理由での不当労働行為とは言えない

3.使用者の人事評価上の裁量権

正当な労働組合活動を妨げる使用者の介入を不当労働行為と呼びます。

本判決では、使用者の人事評価上の裁量権と不当労働行為の関係性が論点となりましたが、不当労働行為の存在は認められませんでした。

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会社批判を繰り返す社員の人事評価を行わないと?

使用者と労働者

1.会社批判と査定評価

M社に勤務する労働者Aは管理職の地位にありながら、会社批判を行い上司から叱責を受けました。また翌月には会長室で注意を受けましたが、謝罪を拒否。ここでも持論を展開し会社批判を行いました。

M社はAを降格。賃金も減額しました。AはM社を相手取り、損害賠償を提訴。広島高裁は一部Aの請求を認めました。

2.一連の事件に基づく降格は適法だが・・・

マナック事件
広島高裁 平成13年5月23日

広島高裁の判決要旨は次のとおりです。

①会社には労働者が職務に適する能力を有するか否かを判断するための裁量権が認められている
②この能力には職務遂行能力だけでなく、部下指導上のための職場内秩序維持への責任能力も含む
③Aには問題行動以前にも、監督職として能力に疑問を示す評価がなされており、
④本事件については発言内容もさることながら、勤務時間中・同僚の前で・大声でなされた
⑤さらにAの発言は主観的評価や思い入れに基づき、経営陣を人格的非難するものであるため、
⑥人事評価で負の評価を受けても当然の行為である(ため、一定の降格は違法ではない)
⑦一方で昇給に関してもM社の自由裁量権の範囲にあるが、
⑧労働者には就業規則で定める評価によって正当に評価され、昇給する利益がある
⑨M社は労働者Aを正当に評価しなかったため、Aの利益を侵害している
⑩よってM社の行った昇給査定は不法行為である

3.積極的評価と消極的評価

判決には大きく分けて二つの論点があります。

ア)適正な人事評価に基づく降格処分は適法である
イ)労働者の成績を適正に評価しないことは、昇給の機会を侵害し違法である

事例ではア)に基づく部分とイ)に基づく部分を明確に区分し、イ)部分を違法と認定しました。

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12年間に渡る人事評価をやり直せと言われても

使用者と労働者

1.人事評価に対する訴え

K社に勤務する労働者Aは、K社が導入した職能資格制度により12年間不当な人事評価がなされたとして、K社を提訴。

差額賃金・退職金を求めましたが裁判所は棄却しました。

2.人事評価における裁量権

光洋精工事件
大阪高裁 平成9年11月25日判決

大阪高裁の判決要旨は次のとおりです。

①人事評価では労働能力と業務成績を総合判断する
②定量判断が出来ないため、裁量が大きく働き
③個々の労働者において適格に立証するのは困難である
④Aの訴えの対象は長期間にわたり、これを後日検証するのは困難である
⑤またAの延べる証拠価値は極めて乏しい
⑥人事評価では合理性を欠き、社会通念上妥当性を欠く場合を除き、違法とはできない

3.人事評価を権利濫用で訴えることは原則不可

人事評価においては、多分に評価者(会社)の裁量的なウエイトが重いため、それを権利濫用とすることはほとんど不可能でしょう。

例外的に違法となるケース(合理性を欠き、社会通念上妥当性を欠く)が示されました。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)