1箇月(1年)単位の変型労働時間制

1.労働時間を月(年間)トータルの枠内に収める

デパート、商業施設には、特に年末年始やお盆、ゴールデンウィークには通常より多くのお客様がお越しになります。当然業務量も多くなり、残業も増えることでしょう。 逆にその時期を外すと業務量が落ち着き、残業も少ないようです。 このような業態において、労働時間を月(年間)トータルの枠内に収めるというのが1箇月(1年)単位の変形労働時間制です。

2.対象とする期間

1箇月単位の変型労働時間制は1ヵ月以内、1年単位の変型労働時間制は1ヶ月~12ヶ月の指定の期間で対象期間を定めます。後者の場合、例えば仕事のボリュームが1年サイクルで繁閑の差が出る場合は1年。季節(3ヶ月)サイクルの場合は3ヶ月として定めます。

3.残業代(時間外労働手当)の考え方

1年1サイクルの例で考えて見ます。 40時間 × 365日 ÷ 7 = 2085時間 つまり1年合計で2085時間内であれば残業代(時間外労働手当)支給の問題が生じないわけです。

一方で2085時間以内であれば、1日の労働時間に上限はないのか?という問題が出ます。 法律で一定の規制が設けられています。

【1箇月(1年)単位の変型労働時間制の規制】
①1日の上限労働時間は10時間
②1週間の上限労働時間は52時間
③導入には労使協定で定めて監督署へ届け出る
④サイクルの途中入退社には適用しない

※労使協定で定める日・週の上限労働時間を越えると、その時点で残業代(時間外労働手当)支給が必要となります。

 

1週間単位の非定型的変形労働時間制

1.旅館、小売店、飲食店などのサービス業が対象

旅館、小売店、飲食店などのサービス業で働く方は、土日祝およびその前日にはお客様の来店が多く忙しいですね。その反面、平日はお客様の来店が減ります。

そこで1週40時間労働を前提に、土日祝とその前日に10時間働き、平日を6.5時間にするといった調整が可能です。これを1週間単位の非定型的変形労働時間制と呼びます。

2.1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入条件

1週間という比較的短いサイクルで、従業員の労働時間を調整する仕組みですので、導入条件が厳しく定められています。

【1週間単位の非定型的変形労働時間制の導入条件】
①仕事の繁閑が激しい指定事業であること(小売・旅館・料理店・飲食店)
②事業場の従業員が30名未満であること(会社全体の従業員数とは違います)
③労使協定を締結し、監督署へ届け出ること
④1週の開始前に、シフトを通知すること

3.週44時間の「労働時間の特例との併用」

事業場の従業員が10人未満の小売業などは、法定労働時間が44時間とされる特例があります。しかし1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入する場合、上限は40時間です。

1週間単位の非定型的変形労働時間制を導入するのであれば、余分な4時間はシフトで調整しましょうという意味です。

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変型労働時間制の無効要因

使用者と労働者

1.1箇月変型労働時間制におけるシフトの変更

J社では、労働基準法32条の2に規定される1箇月単位の変型労働時間制(以下、1月変型制)を採用していました。労働者Aは同制度に基づき勤務。勤務シフトは前月25日までに決定されていました。

しかしJ社では就業規則に基づき、勤務シフトを頻繁に変更。労働者Aは就業規則の無効と、変更後の勤務に対する超過勤務手当てを求めてJ社を訴えました。

2.勤務日が特定されているか

JR西日本 広島支社事件
広島高裁 平成14年6月25日判決

広島高裁の判決要旨は次のとおりです。

①公共性のある事業では1月変型制のシフト変更は直ちに違法とは言えない
②しかしその変更はやむを得ぬ場合の例外的措置でなければならない
③また使用者の恣意性を排除するために、規則に限定的事由を列挙記載しなければならない
④J社ではその列挙がないため、本条の要求する勤務日を特定したことに該当しない
⑤よって同社の就業規則該当条項は無効である

3.使用者の恣意的変更が出来る場合、無効

1箇月単位の変型労働時間制は就業規則への記載だけで採用が可能ですが、この制度導入に当たっては、対象日の特定が必要です。通常は勤務シフト表を作成することになりますが、本事件ではそのシフト変更が、使用者の裁量によっていかようにも変更可能であることが争点となりました。

結論として、広島高裁は使用者の裁量次第で変更可能なシフト表である場合、就業規則の当該条項を無効であると判断したのです。

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事業場外労働者の残業代(時間外労働手当)

1.営業社員に残業代が要らないという誤解

一般的に営業社員には、業務手当・外勤手当・歩合手当などが支給され、それが理由で残業代(時間外労働手当)支給が不要と思われていませんか?実はそれは大きな誤解です。

上記のような手当が出るから残業代(時間外労働手当)が支給不要なのではなく、別の理由が労働基準法で規定されているからなのです。つまり、事業場外労働に関するみなし労働時間制です。

2.営業社員に残業代が要らない理由

労働基準法では次の3つの条件を全て満たす場合に限り、事業場外労働に関するみなし労働時間制が適用され、例外つきで残業代の支給が不要とされています。

【事業場外みなし労働時間制の適用条件】
①事業場(オフィス)から出て仕事をする
②外出中は上司の監督が効かない
③労働時間の計算が困難

以下、それぞれの条件を詳しく解説します。

3.事業場(オフィス)から出て仕事をする

文字通り、外勤を指します。つまり同じ営業職であったとしても、カウンターセールス(例:賃貸不動産、保険の販売窓口)やアパレルショップの店員さんなどはこれに該当しません。つまり残業代(時間外労働手当)の支給が必要です。

なお、1日のうち外勤(事業場外労働)と内勤が混在する場合でも、全体を「所定労働時間」の労働とみなすことができるため、残業代(時間外労働手当)の支払いは不要となる場合があります。

4.外出中は上司の監督が効かない

つまり、朝「今日は5件のお客様を回ってくること!」という指示だけ受けて、後は上司が逐次指示を出さないまま外勤を続けることを意味します。

5.労働時間の計算が困難

上記の例で言うと、5件のお客様との商談時間、移動時間の予測がつかないことを意味します。運送業などで予め決められたルートを回る場合は、労働時間の算定が困難とは言えないため、事業場外みなし労働時間制の適用は困難です。

6.「それは無理だ」というオーバーワークを課せられた場合

2における3条件を満たす場合、どのような仕事を割り当てられても残業代(時間外労働手当)が支給されないというのは、不公平です。

のため、「それはとても無理だ」という仕事量を割り当てられて外勤する場合は、一定の時間枠に限り残業代の支給が必要です。一般的には、労使協定でその「オーバーワーク部分」を定め、業務手当・外勤手当などでカバーしているという訳です。

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事業場外みなし労働時間制の無効要因

使用者と労働者

1.旅行添乗員と事業場外みなし労働時間制

H社で旅行添乗員として勤務する労働者A。H社では事業場外みなし労働時間制が採用されていました。

しかしH社では、指示書・添乗日報・携帯電話管理などでAの労働時間を正確に把握できました。Aは実際の労働時間に基づく割増賃金を求めてH社を提訴。

東京高裁は事業場外みなし労働時間制の適用を否定し、H社に割増賃金の支払いを命じました。

2.労働時間を算定し難いときに該当しない

阪急トラベルサポート事件
東京高裁 平成24年3月7日判決

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①H社は指示書・添乗日報・携帯電話管理によりAの労働時間を性格に把握できた
②よって労働基準法38条の2による、「労働時間を算定し難いとき」に該当せず、
③事業場外みなし労働時間制の適用はない

3.制度導入には、使用者側の指揮監督権・管理権の放棄が必要

同制度の導入には、

・事業場外で勤務
・使用者の具体的な指揮監督が及ばない
・労働時間を算定し難い

という3つの要素が必要とされています。本件判決で、その適用が否定されたことにより、世の中の事業場外みなし労働時間制のあり方が問われそうです。

制度導入により、使用者は割増賃金の支払い義務を免れる反面、一定の指揮監督権・管理権を明確に放棄する必要があるため、業務管理のあり方から再構築する必要があるでしょう。

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時間外労働の拒否に解雇有効

使用者と労働者

1.時間外労働命令の拒否

H社で勤務する労働者Aは、たびたび残業命令を拒否。最終的に懲戒解雇処分を受けました。

AはH社を相手取り、解雇無効を主張。最高裁は労働者Aの訴えを退けました。

2.36条協定と就業規則で労働契約上の義務となる

日立製作所武蔵工場事件
最高裁 平成3年11月28日第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①A社では36条協定を締結し、労働基準監督署へ提出していた
②同協定と就業規則による残業の記載が合理的であれば、
③それは労働契約となり、時間外労働の義務となる
④時間外労働の発生要因が概括的であっても事足りる

3.残業命令の拒否には同じく規則への記載が必要

判決では、36条協定と就業規則により、時間外労働が労働契約上の義務となり得ると示しています。

従業員が残業命令を拒否するためには、同じく労働契約上の権利として規則に記載しておく必要があるわけです。

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労務専門コラム 残業代・労働時間・休日編

>>①労働時間とはいったい何か?
>>②残業代(時間外労働手当)の支払い義務の全貌
>>③変型労働、みなし労働と残業の関係 (今このページです)
>>④36条協定・管理者・歩合の残業問題
>>⑤専門業務型・企画業務型裁量労働、フレックス制と残業代
>>⑥有給休暇の時季指定と変更
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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
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 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)