機密情報を持ち出した従業員を懲戒解雇

使用者と労働者

1.秘密保持義務と組合活動

共産党員として組合活動を展開する労働者AはF社の機密情報を持ち出し、組合活動の戦略策定に流用しました。

これを知ったF社は労働者Aを懲戒解雇。Aは組合活動を妨害する不当労働行為であるとF社を訴えましたが、東京高裁はAの訴えを退けました。

2.信義則上の守秘義務

古河鉱業足尾製作所事件
東京高裁 昭和55年2月18日判決

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者は使用者に対して、信義則上の守秘義務を負っている
②F社は労働協約、就業規則で秘密漏洩に対する懲戒解雇を定めているのは妥当である
③組合はF社の規定を承認している
④同じく組合は労働者Aの行為を承認していなかった
⑤よってAの行為は組合活動とは言えず、解雇は有効である

3.正当な根拠を持たない組合活動

東京高裁の判決要旨をまとめると、信義則に基づく労働者の守秘義務と労働協約・就業規則の有効性。あわせて労働者Aの行為が組合活動でも何でもない、と言う点にあります。

正当な根拠を持たないAの活動が否定された判例であると言えます。

 

ライバル会社への転職禁止期間は何年が限度?

使用者と労働者

1.ライバル会社への転職

退職後、ライバル会社へ就職した労働者A。

F社は勤務差止請求を行い、地裁において認められた事件です。

2.競業避止の範囲の判定基準は?

フォセコ・ジャパン・リミテッド事件
奈良地裁 昭和45年10月23日

奈良地裁の判決要旨は次のとおりです。

①一般知識ではない特殊知識は保護されるべき法益である
②一定範囲内における競業避止の特約は合理性がある
③人的情報、材料、技術などの秘密のうち技術秘密の重要性は高い
④競業避止の範囲としては、期間・場所・代償などについて、
企業の利益・転職者の不利益・社会的利益の3つの視点での検討が必要である
⑥F社が定めた競業避止義務は2年間かつ職種限定であるため狭いと言える
⑦また雇用期間中労働者Aには機密保持手当が支給されていた
⑧よってF社の競業避止制限は正当である

3.競業避止義務「2年」の根拠

一般的に広まっている、2年間の競業避止義務の根拠となる判例です。

しかし、判決では単に2年間という制約だけではなく、職種・代償措置にも触れていることを見落としてはいけません。

 

禁止範囲の広すぎる競業避止義務

使用者と労働者

1.不正競争と競業

I社を退職した労働者Aらが、I社の競業避止義務に背いて会社を設立し、I社の顧客を奪いました。

判例では、労働者Aらの行為を不正競争として、差止と損害賠償義務を認めつつも、競業避止義務違反については認めませんでした。

2.広範囲すぎる競業避止義務

岩城硝子事件
大阪地裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者Aらの行為は不正競争防止法第2条1項7号8号に違反するが、
②退職時に負っていた競業避止義務は広範すぎ、合理性がない
③つまり対象が広く場所的限定がなく期間が5年と長期で代償措置がない点である
④よって労働者Aらは不正競争に基づく損害賠償責任を負うに留まる

【不正競争防止法 第2(不正競争の定義)】
7号 営業秘密を保有する事業者からその営業秘密を示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用し、又は開示する行為

8号 営業秘密について不正開示行為であること若しくはその営業秘密について不正開示行為が介在したことを知って、若しくは重大な過失により知らないで営業秘密を取得し、又はその取得した営業秘密を使用し、若しくは開示する行為

3.競業避止義務を負わせる際の留意点

フォセコ・ジャパン・リミテッド事件の判決要旨と合わせ読むと理解しやすいですね。

つまり、従業員の退職時に企業が負わせる競業避止義務については、

・対象職種が広すぎないか?
・場所的制限が広すぎないか?
・禁止期間が長すぎないか?(2年は短く、5年は長い)
・代償措置が取られているか(機密保持手当の支給など)

上記が総合的に判断されるということです。

 

労務専門コラム 就業規則編

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>>⑦就業規則の変更で労働条件を不利益変更
>>⑧従業員に対する損害賠償請求、会社に対する発明の対価請求
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>>⑩労働者のプライバシー保護はどこまで?
>>⑪機密保持義務、競業避止義務の限度(今このページです)
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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)