セクハラ防止に対する使用者責任

使用者と労働者

1.異性関係の流布によるセクハラ

女性労働者Aは、上司により異性関係を流布され、退職を余儀なくされました。

地裁は会社と上司に対して不法行為責任を負わせました。

2.民法715条使用者責任に違反

福岡セクハラ事件
福岡地裁 平成4年4月16日判決

福岡地裁の判決要旨は次のとおりです。

①上司は社内外で労働者Aの異性関係の情報を流布した
②これによりAが職場に居づらくさせる状況を作り、
働きやすい環境で働く利益を害した
④これらがAの名誉感情、人格権を害したのは言うまでもない
⑤会社はこれらの状況を知りつつ放置した
⑥これらの状況は民法715条使用者責任に違反する

【民法第715条(使用者等の責任)】
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

3.男女雇用機会均等法への流れ

上司の行為が労働者Aの名誉を毀損し、人格権を害したことは言うまでもありません。論点は、一連のセクハラ行為に対する会社の関与です。

会社には民法715条使用者責任があるため、セクハラ行為をやめさせ、労働者が働きやすい環境を作る義務を負うというものです。

これらの考え方は「男女雇用機会均等法 平成18年厚生労働省告示第615号」へと受け継がれているわけです。

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拒絶されなくてもセクハラは成立する?

使用者と労働者

1.密室でのセクハラ行為

女性労働者Aは、上司により継続的に身体的セクハラ行為を受けていました。しかもそれが他人の見ていない環境下(いわゆる密室という)にあり、Aの証言の有効性が問題となりました。

東京高裁は以下の理由で、上司および会社の不法行為を認定しました。

2.セクハラに米国の心理学の応用

横浜セクハラ事件
東京高裁 平成9年11月20日判決

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①身体的接触によるセクハラはその状況を総合的に判断し、違法性を認定する
②また行為を受けた時、労働者Aは逃げたり、大声で叫んだりしなかったが、
③米国の心理学によると、そのような抵抗をしない心理が働くことがあると言われている
④労働者Aの証言のうち、その大半はセクハラ行為があったと認定できる
⑤よって上司と会社はセクハラ行為について損害賠償責任を負う

3.セクハラ認定の基準を示す

判決では、「**を行ったら即セクハラ認定」ではなく「社会通念に即して総合判断をする」と示しています。

また、女性が逃げたり大声を上げたり、という身体的抵抗をしない事が、必ずしもセクハラ行為に対して同意を与えているわけではないという米国心理学を応用している点も重要であると言えます。

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管理者に許される域を超えた指導(パワハラ)

使用者と労働者

1.罵声と暴力による嫌がらせ(パワハラ)

N社で勤務する労働者A。上司からたびたび罵声を浴びせられ、かつ身体的暴力をも受けました。

東京地裁は上司および会社に不法行為責任を負わせました。

2.上司の指導の域

日本ファンド パワハラ事件
東京地裁 平成22年7月27日判決

東京地裁の判決要旨は次の通りです。

①上司は他の従業員がいる前で、Aを大声で時には有形力を用いて叱責するのが常態であり、
②Aに対して執拗に人格権を否定し、屈辱感を与えている
③これら上司の行為は、社会通念上許される業務上の指導の域を超えている

3.パワハラ問題の論点

セクハラと異なり、パワハラの問題は論点がシンプルであり、

社会通念上認められる、管理者(上司)の指導の域を超えているか否か

と言う点です。管理者(上司)は怠惰で能力の劣る部下に、激しく大声で叱責する必要性があります。一方で、許容限度を超えてしまうと違法性が認定されるというのが判決の基本的枠組みです。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)