合理的な理由さえあれば就業規則は変えられる

使用者と労働者

1.就業規則変更による定年退職

労働者Aはバス会社に主任として勤務していました。当時会社には、主任以上の定年退職制度がありませんでした。

しかし、会社は就業規則の改定により主任以上の定年退職制度を制定。労働者Aはその新制度に基づき、定年退職の勧告を受けます。

判例では、当該就業規則に基づく定年退職処分を認めました。

2.合理的理由に基づく就業規則の不利益変更

秋北バス事件
最高裁 昭和43年12月25日大法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。(判決では定年ではなく停年という表現を用いています)

①労働者は経営主体が示す定型的契約内容を、附従的に締結する
②それが就業規則であり合理的なものである場合は、法的規範性がある
③このような就業規則の性質に基づき、労基法では直律的効力※まで認めている
④就業規則の存在・内容を知っているかどうか、同意を与えたかどうかは関係ない

⑤就業規則の作成・変更により労働条件を不利益に変更することは原則不可
⑥ただし、合理的な理由がある場合は除く
⑦理由が合理的な場合は団体交渉などの正当な手続きで改善すべきである

停年がないということは雇用期間の定めがないというだけである
⑨つまり終身雇用を認めたり、将来停年制を設けないという約定ではない
⑩よって停年制の採用は、既得権侵害にはならない

⑪一般に高齢化により職務的確性は逓減し、給与は逓増する
⑫それを是正する人事上の施策が停年制である

⑬同社の停年制は停年退職ではなく停年解雇※である
⑭つまり再雇用制度により停年制が緩和されている
⑮労働者Aに対しても、Aが所属する会にも再雇用が通知されている
⑯よって就業規則の適用を、労働者Aは拒否できない

 

【就業規則の直律的効力】
就業規則の基準に達しない労働契約は、その部分に付き無効
無効となった部分は就業規則の基準に引き上げる

【停年退職と停年解雇】
停年退職:一定年齢で自動的に職を失う
停年解雇:再雇用・継続雇用制度が設けられている

3.判例が労働契約法の骨子に引き継がれる

判決は昭和43年12月25日。今(2015年)から50年近く前の事件です。その後、同判例の趣旨に基づき、幾つかの事件を経て、労働契約法が制定されました。

労働契約法は、労働契約に着目するものですが、その第9条、10条をご紹介します。

労働契約法 第9条(要約)
「労働者の同意なしに、就業規則の変更によって労働条件を不利益変更することはできない。」

労働契約法 第10条(要約)
「以下の場合に限っては、労働者の同意なしに就業規則の変更によって労働条件を不利益変更できる。」

①変更後の就業規則を周知する
②変更内容が合理的である
③労働組合等との交渉が合理的である

合理的であるかどうかが最大のポイントとなるわけです。

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就業規則が労働契約となり得る

使用者と労働者

1.業務命令と就業規則

労働者Aは会社から健康診断受診の命令を受け、これを拒否しました。会社は労働者Aを戒告処分に。

Aは処分無効の訴えを起こしましたが、認められず会社が勝訴した事件です。

2.就業規則の合理性

電電公社帯広局事件
最高裁 昭和61年3月13日第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

合理的な就業規則条項は労働契約の内容となり得る
②同社の職員は健康保持の義務があるが、これは合理的な規定である
③また健康保持命令の範囲を限定的に捉える必要性はない
④つまり病院や医師の指定を行うこともできる
⑤その事が労働者の診療の自由、医師選択の自由を侵害することにはならない
⑥会社が内部病院を指定したが、その判断にも合理性がある
⑦よって就業規則に基づく受診命令には合理性がある

3.就業規則に従う意思表示をしていなくても・・・

労働者Aの主張は、

「私は健康診断受診命令に服する労働契約をした覚えはない」

こんなところでしょう。判決では、合理的な就業規則は労働契約となり得ると示しています。これは後の労働契約法第7条にも引き継がれています。

労働契約法 第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

入社時に締結する労働契約に健康診断受診命令についての条項がなかったとしても、合理的な就業規則には従う必要があるとの方向性が示されているわけです。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)