従業員に対する損害賠償請求には限度がある

使用者と労働者

1.事故を起こした労働者への損害負担請求

労働者Aはタンクローリーを運転中、前の車に衝突。損害を生じさせました。労働者Aの勤務先I社は相手先に損害額を支払いました。

と同時に、労働者Aにその損害の全額を請求最高裁は労働者Aの負担限度は4分の1が限度であるとし、それを越える部分を認めませんでした。

2.労働者の負担限度額は4分の1

茨城石炭商事事件
最高裁 昭和51年7月8日 第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者が起こした事故における損害賠償において
②使用者がその負担額を労働者に請求できる限度は信義則に基づき、
③その賠償額は置かれた環境により総合的な判断を行わねばならない
④今回の事件では労働者Aの負担限度額は4分の1である

3.信義則上、労働者に全額負担させることはできない

仕事中に労働者が起こす事故。一旦会社がその損害を負担し、労働者に請求する場合、根拠は民法の規定によります。

民法第715条(一部省略)
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

3.前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

 

判例でなぜ4分の1という額を認定したのかは不明です。しかしこの問題の論点は、「営利活動を行う使用者が、労働者に全額負担させるのは信義則上認められない場合がある」ということでしょう。

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慣習が正式な労働契約となるか?

使用者と労働者

1.規則と異なる運用が慣行と認められるか

特定休日と祭日が重なっても、休日振替を行わないという労使協定があったH社。しかし実際の慣行では休日の振替を行っていました。

それが慣行として民法92条で保護されるべきものなのか。最高裁は、「慣行とは言えない」として労働者らの訴えを退けました。

2.期間、回数、使用者の規範意識で判断

商大八戸ノ里ドライビングスクール事件
最高裁 平成7年3月9日第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労使慣行が事実慣習として法的保護を受けるかは、総合考慮が必要である。
②そしてその判断には期間、回数、使用者の規範意識が必要である。
③本事件では期間は長期に渡っているとは言うものの、
④特定休日と祭日が重なった回数は少なく、
⑤慣習として、使用者が規範意識を持っていたとは言い難い
⑥よって事実慣習として法的保護を与えることはできない

3.規定の定期的な運用チェックを

民法92条に次の規定があります。

民法第92条
法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合において、法律行為の当事者がその慣習による意思を有しているものと認められるときは、その慣習に従う。

判例で示したのは、慣行が保護されるためには、期間・回数・使用者の規範意識であるという点です。規定と運用が異なっている場合、労働者側が権利を主張する形で問題が表面化する可能性があるため、定期的なチェックが必要であると言えます。

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発明・特許を就業規則により100%会社の物とできるか?

使用者と労働者

1.職務発明をめぐる労働者への報奨金額

在職中に職務発明をした労働者A。O社は規定に基づき発明を会社のものとし、Aに報奨金を支払いました。

Aは報奨金が、本来受け取るべき額より少ないとしてO社を提訴。最高裁はO社に追加報奨金の支払いを命じました。

2.報奨金が必ずしも相当の対価に該当するとは言えない

オリンパス光学工業事件
最高裁 平成15年4月22日第三小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①特許法35条により、職務発明における特許権は原則従業員にあるが、
②社内規則により権利が使用者に継承され、
③従業員に報奨金を支払うことを決定することができる
④しかしその報奨金が同法における相当の対価に一致するとは必ずしも言えない
⑤本件では相当の対価に満たない部分を、従業員は請求し得る

3.報奨金規則の決定には十分な協議が必要

社内規則が、会社側の一方的な決定によりなされている場合は、報奨金=相当の対価とは言えない、とした判例です。

特許法は平成16年に改正され、報奨金を決定するためには、十分な協議を行うなど手続きの確保が必要であるとしています。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)