学歴詐称・犯罪秘匿で懲戒解雇

使用者と労働者

1.学歴詐称と犯罪の秘匿

大学中退の事実、刑事事件の公判中の事実を隠してT社に就職した労働者A。

後の非行とあわせて、T社は上記事実をもとに懲戒解雇としました。最高裁がT社の処分を認めた事件です。

2.学歴は正しく回答すべき事実

炭研精工事件
最高裁 平成3年9月19日第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者は雇用されるときに、質問に正しく応じる義務を負う
②その質問の前提は合理的範囲に留まる
③最終学歴は労働力評価および企業秩序維持に関係する
④公判継続中の事実は、賞罰の確定ではないため申告義務があるとは言えない
⑤就職後の逮捕事実を含め考慮すると、懲戒解雇は適法である

3.面接における質問の合理性

判決は、学歴詐称のみをもって懲戒解雇を認めているのではなく、就職後の逮捕事実との総合考慮であることに注意が必要です。

また、面接現場における質問の合理性について、職場への適応性、貢献意欲、企業の信用保持、秩序維持などを列挙しています。

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政治活動を行った従業員を処分

使用者と労働者

1.業務中の政治活動

M社に勤務する労働者Aは勤務中に、政治信条を記した胸章を着用。管理職から胸章を外すよう命じられましたが、これを無視し、さらに休憩時間を利用して管理職の批判のためのビラを配布しました。

M社は労働者Aを戒告処分にしたところ、最高裁はM社の処分を認めました。

2.諸々の弊害を引き起こすおそれ

目黒電報電話局事件
最高裁 昭和52年12月13日第三小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①職場は業務遂行の場であり、政治活動の場ではない
②政治活動は従業員相互の政治的抗争を生じさせ、
③使用者の施設管理を妨げ、
④労務提供義務、他の従業員の業務提供義務を妨げ、
⑤作業能率を低下させ、
企業秩序の維持に支障をきたす恐れがある
⑦よって政治活動の禁止は合理的である
⑧胸章着用は身体活動面では作業に支障をきたさないが、
精神活動面では、注意力の一部がそがれ
⑩これは他の従業員に対しても影響を与える
⑪よって上記は懲戒事由に該当する

3.政治活動禁止の合理性

判決では、政治活動自体が作業能率の低下に直結しないまでも、注意力(精神的面)が散漫になる可能性に触れ、政治活動の禁止の合理性を説いています。

そのような状態を防ぐため、就業規則で政治活動を禁止するとした件を合理的であると述べているわけです。

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内部告発者に対する不当人事

使用者と労働者

1.内部告発と人事権

大手運送業T社に勤務する労働者Aは、T社の違法・不当な行為を新聞社に内部告発しました。これを嫌ったT社はAに対して不当な人事異動を行いました。

AはT社を相手取り、自身の被った不利益について損害賠償を請求。富山地裁はAの請求を認めました。

2.公益目的の内部告発に人事権濫用で応酬

トナミ運輸事件
富山地裁 平成17年2月23日判決

富山地裁の判決要旨は次の通りです。

①T社の違法・不当行為は真実または真実であると信じる合理的理由がある
②また告発の内容にも公益性があり、
③労働者AにはT社を加害する目的もなく、
④私的な利益を得る目的も認めることはできない
⑤よって労働者Aの内部告発は法的保護に値する
⑥これに対するT社はAに退職を強要し、
⑦営業職から理由なく雑務に異動し、
⑧他の従業員との接触を絶った
⑨これらの行為は人事権の裁量の範囲を逸脱する

3.内部告発の対象とその理由

本事件の特徴は、内部告発の対象が真実(または真実であると信じる理由がある)であり、告発が公益目的であることです。

これがなく、単に会社を陥れ、自己の利益を図る目的での内部告発は法的保護の対象とはなりえません。

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合理的理由のある所持品検査は拒否できない

使用者と労働者

1.所持品検査拒否と懲戒解雇

N社に勤務する労働者Aは所持品検査を拒否したため、懲戒解雇されました。

N社の所持品検査に合理的な理由があるとして、最高裁で認められた判例です。

2.所持品検査では基本的人権侵害に注意

西日本鉄道事件
最高裁 昭和43年8月2日第二小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①交通機関N社の乗務員には金品の不正隠匿の可能性がある
②そのため所持品検査は一定の場合に許される
③しかしその場合も基本的人権侵害に注意が必要であるため、
④労働基準法および就業規則に所持品検査の規定があっても、
⑤当然に適法視されるものではない
⑥所持品検査は合理的理由に基づき、制度としての画一実施が必要である
⑦その場合労働者は特段の事情がない限り検査を受忍する義務を負う
⑧労働者Aには特段の事情が無いため、その拒否は懲戒事由に該当する

3.所持品検査の必要性にも留意

本判決が示しているポイントは、外見上適法に実施される所持品検査も、労働者の基本的人権に配慮しつつ、

合理的な理由が必要であり、
・制度として全従業員に画一的な実施が必要

であるという点です。

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労務専門コラム 解雇・懲戒処分編

>>①解雇の取扱いを労働基準法・労働契約法で考える
>>②職場外の行為、過去の事件に対する懲戒は可能?
>>③学歴詐称・政治活動・内部告発・所持品検査拒否と懲戒(今このページです)
>>④転勤・職種異動・出向・転籍命令の拒否
>>⑤合意退職または予告なき解雇の成立時期、不当な退職勧奨
>>⑥解雇権濫用法理とは何か?
>>⑦整理解雇が成立するための要件
>>⑧有期雇用契約と解雇権の行使
>>⑨セクハラ懲戒処分 妥当判決
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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
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 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)