職場外の非行を懲戒処分にできるか?

使用者と労働者

1.職場外行為に対する懲戒

K社に勤務する労働者Aは、職場外(社宅)でK社を誹謗中傷するビラを配布。

K社はAをけん責処分にしたところ、最高裁はK社のけん責処分を認めました。

2.職場外行為であっても懲戒権の及ぶ場合がある

関西電力事件
最高裁 昭和58年9月8日第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者は労務提供義務とともに企業秩序遵守義務を負い、
②企業は企業秩序維持のための懲戒権を持つ
③これは職場外つまり職務とは無関係の行為についても及ぶ
④Aの行為は労働者の会社に対する不信感を醸成して
⑤企業秩序を乱すものであるため
⑥K社の採った懲戒処分は適法である

3.労働者と企業の秩序維持に対する権利義務が明らかに

職場外行為であっても、また職務に直接関係のない行為であっても企業の懲戒権が及ぶとした判例です。労働者の企業秩序遵守義務、企業側の企業秩序維持目的での懲戒権が明確に示されました。

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逆に職場行為に対する懲戒が違法とされた判例を紹介します。

職場以外の非行に懲戒解雇 無効判決

使用者と労働者

1.住居侵入罪と懲戒解雇

Y社に工場作業員として勤務する労働者Aは、深夜酩酊して他人住居に違法侵入して通報されました。

Y社は就業規則に基づき労働者Aを懲戒解雇。しかし最高裁はY社の懲戒解雇処分を認めませんでした。

2.会社の対面を著しく汚したと言えるか?

横浜ゴム事件
最高裁 昭和45年7月28日第三小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①労働者はAは他人住居に違法に侵入し、処罰された
②Y社では職場諸規律の遵守と信賞必罰を強調していた矢先の事件だった
③事件の噂が数日のうちに社内広まったことを考えると、
④Y社の懲戒解雇処分は無理からぬ点がないとは言えない
⑤しかし、労働者Aの行為は業務とは関係なく、
⑥罰金も2500円と軽微に留まり、
⑦Aは作業員であり、指導的立場にもないため、
⑧就業規則に言う「会社の対面を著しく汚した」とは言えない
⑨よって懲戒解雇は認められない

3.犯罪の程度、労働者の地位、業務との関連性をもとに判断

本判例では、企業が規則で定める懲戒解雇事由「会社の対面を著しく汚した」と言う点について、否定的判断がなされました。

職場外行為も懲戒処分の対象になり得るとしつつも、その程度や職務上の地位、業務との関連性を考慮して判断すると言う姿勢が示されています。

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解雇理由を明示しない解雇通知

使用者と労働者

1.懲戒解雇事由の後付け

Y社に勤務する労働者Aは、急な欠勤を申し出たためY社が即日解雇(解雇1)。Aは裁判所に解雇無効を訴えました。これに対してY社は、「仮にその解雇が無効とされた場合、経歴詐称を理由として解雇する(解雇2)」と答弁しました。

最高裁は解雇2は有効であるとしつつも、経歴詐称を理由として解雇1を認めることは出来ないと判断しました。

※解雇1、2はその成立日に違いがあるため、未払い賃金の認定額に差が出ます。

2.解雇時に認識があったかどうか

山口観光事件
最高裁 平成8年9月26日第一小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①Y社は解雇1において経歴詐称を認識していなかった
②解雇時に認識していなかった非違行為を解雇事由とすることはできない

3.解雇事由を明確に通知する

後から解雇事由を追加することが認められない事が明確になりました。

つまり、解雇通知を行う際に、その理由を具体的に列挙明示しておらず、後から解雇事由を示すようでは、「解雇のときに認識していなかった」とされる可能性があり、解雇無効とされる可能性があるということです。解雇通知のあり方が問われる判例であると言えます。

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7年前の事件に対する懲戒処分

使用者と労働者

1.長期間(7年)経過後の懲戒処分

N社に勤務する労働者Aは、労働争議上のトラブルから上司に対して暴力行為を働きました。上司は労働者Aを告訴。N社は事件の経過を見守りつつ、態度を保留していたところ、結果的に不起訴処分となりました。

事件発生から7年後、N社は労働者Aを諭旨退職に処そうとしましたがAが拒否。結果懲戒解雇処分を行いました。最高裁はN社の懲戒解雇処分を無効であると判断しました。

2.7年前の事件を理由とした懲戒解雇は無効

ネスレ日本事件
最高裁 平成18年10月6日第二小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①N社は捜査の経過を待って処分を検討したと言うことであるが、
②社内の目撃者の存在から、会社として即時に処分を決定することは可能だった
③よって懲戒権を長期留保する合理的な理由はない
④また結果不起訴であれば、重い懲戒処分は避けるべきところ、
⑤逆に諭旨退職処分を行うのは対応の一貫性を欠く
⑥懲戒解雇には処分時点における合理性が必要であり
⑦処分時点にはN社の企業秩序は回復傾向にあった
⑧よって7年前の事件を理由とした懲戒解雇は無効である

3.懲戒処分はタイミングよく

判決中の重要ポイントは、「処分時点における合理性」です。

つまり、過去の事件を蒸し返して処分を行うことに合理性を欠く場合、懲戒事由とは認められない事があるということです。

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単に「起訴されただけ」を理由とする懲戒処分

使用者と労働者

1.私的な傷害事件が原因での休職命令

航空会社Zに勤務する労働者Aはプライベートな傷害トラブルを起こし、罰金10万円の略式命令を受けました。しかしAは無罪を主張して正式裁判へ。Z社は起訴翌日から無給の休職処分にしたところAが休職無効と賃金支払いを求め提訴。

東京地裁はAの主張を一部認めました。

2.単に起訴された事実だけを理由とする懲戒処分は無効

全日本空輸事件
東京地裁 平成11年2月15日判決

東京地裁の判決要旨は次のとおりです。

①Z社は就業規則で起訴休職制度を定めているが、これは
②職務内容や公訴事実によっては職場秩序が乱れ、
③企業の社会的信用が害され、
④労働者の継続的な労務提供ができず、
⑤企業活動の円滑な遂行に障害が発生するからである
⑥よって起訴事実のみでは、形式的な起訴休職規定の適用はできない
⑦また休職命令の際は、従業員の被る不利益との均衡を欠いてはならない
⑧本件はZ社の業務外・場所でのトラブルであり、
⑨原因も男女間のもつれから生じた偶発的傷害である
⑩事件の程度を考慮して、無給の起訴休職を命じることはできない

3.刑事事件を理由とする懲戒処分はその軽重をもとに判断

たとえ就業規則に無給の起訴休職制度が規定されていたとしても、その発令は形式的な基準で判断してはならないということです。

事件と処分の実質的な意義の軽重を検討することなく、杓子定規に起訴休職処分にすることの効力を否定しています。

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労務専門コラム 解雇・懲戒処分編

>>①解雇の取扱いを労働基準法・労働契約法で考える
>>②職場外の行為、過去の事件に対する懲戒は可能?(今このページです)
>>③学歴詐称・政治活動・内部告発・所持品検査拒否と懲戒
>>④転勤・職種異動・出向・転籍命令の拒否
>>⑤合意退職または予告なき解雇の成立時期、不当な退職勧奨
>>⑥解雇権濫用法理とは何か?
>>⑦整理解雇が成立するための要件
>>⑧有期雇用契約と解雇権の行使
>>⑨セクハラ懲戒処分 妥当判決
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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
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 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)