解雇と労働基準法・労働契約法の関係

1.解雇は労働契約の解除

労働契約法では、解雇に合理的な理由がない場合は権利濫用として無効とする、と規定されいます。さらに、仮に合理的な理由があったとしても、労働基準法の制限を受けるため即日解雇することはできません。即日解雇は労働者の生活を奪うことになりかねないからです。

1ヶ月事前に通知するか(解雇予告)、1ヶ月相当額の手当て(解雇予告手当て)を支払う必要があるのです。しかし、一定の条件に合致する場合は、上記の配慮も不要な場合があります。詳しくは、解雇に関する基礎知識をご参照下さい。

図にすると次のようになります。

   14日以内 試用期間(任意)以内 試用期間経過後 
 解雇予告(手当)  不要 必要
 解雇の合理的理由  必要だが弱い 強く求められる

 2.試用期間中解雇に求められる合理的理由

一般的に試用期間は、「企業側に労働契約解約権が留保(保持)されている期間」と解釈されています。

つまり、採用選考の段階では判明しない、労働者側の様々な問題点が表面化した場合の解雇が、試用期間経過後よりも低い基準で可能であるという趣旨です。

3.14日経過後の解雇予告手当

入社から14日経過した場合、つまり15日目からは、たとえ試用期間中であっても解雇予告期間(または手当)が必要です。

しかしこの場合であっても、労働者に社内での暴力行為や犯罪行為があった場合、労働基準監督署の認定を得て、即日解雇することができます。

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仕事の能力不足が解雇の原因になり得るか?

1.能力不足による解雇は、果たして可能か?

「面接で言っていたほどの能力がない」
「何度指摘しても、改善しない」
「ミスが多く、重要な仕事を任せられない」

中小企業における人事労務管理の最大の悩みだと思います。仕事の能力不足で解雇することは、果たして可能なのでしょうか?

2.解雇権濫用で「解雇無効」となってしまう法的根拠

結論を先に言いましょう。「仕事ができない、能力が低いという理由で解雇すること」は可能です。

しかし場合によっては、「解雇権濫用(らんよう)」で無効と判断される場合があります。順を追って解説します。

3.労働契約は原則自由

労働契約は「民-民」の契約関係ですので、「私的自治の原則」に基づき自由に契約・解除が「一応は」できることになっています。

4.労働契約とは何か?

個別労働契約、内定通知書、就業規則、労使協定などを総合して労働契約と呼びます。

なお労働基準法に満たない労働条件は、労働基準法の基準まで強制的に引上げされます。(就業規則の直律的効力

5.解雇を規制するのは、労働契約法

労働契約が「民―民」の契約関係とはいえ、資本力・情報力などの面で事業主が圧倒的に有利です。そこで、労働契約に一定のルールを定めたのが労働契約法です。

【労働契約法第16条】
①客観的な合理性・根拠を欠く解雇は無効
②社会的に考えて、解雇処分が重すぎる場合は無効

現在の解雇にまつわる労働トラブルは、この労働契約法第16条の規定を根拠に争われています。では、会社側としては従業員の能力不足と解雇をどのように結び付けていけばよいのでしょうか。私が直接経験した事例をもとに解説します。

 

解雇の客観的合理性・社会通念上相当性を確保する3つのポイント

1.具体的なスキルで「能力不足」を裏づけ

人事評価制度で評価する項目で、能力不足を明確に出来るよう改めます。一般的な人事評価制度には、

①人の姿勢に関する項目(調和力、積極性、素直さなど)
②人のスキルに関する項目(営業成績、クレーム処理、部下指導)

などが混在します。評価項目が多岐にわたる場合にも、少なくとも①姿勢と②スキルは分離してカテゴライズしましょう。②のスキル項目は数値化がしやすいため、以下のフローに最も適しています。

2.能力の絶対評価基準を明確化

次に人事評価項目のうち、②スキル項目の絶対評価化を進めます。①姿勢項目は相対評価になりがちです。例えば、

「Aさんの積極性に比べると、Bさんは消極的だ。」

という具合です。姿勢項目は、

「・・・・という行動が『積極性あり』であると認め、A評価とする」としにくいからです。

 

これに対して②スキル項目は絶対評価にしやすい。つまり、

「契約先10社獲得でA評価、5社獲得でB評価」などです。

このような評価基準を作ると、

「あなたは3ヶ月連続C評価だから、・・・・の処分です」

と指導しやすくなります。判例でも、「相対評価は常に下位の者を作り続けるため、相対評価基準で能力不足の判定をするのは合理性に欠ける」と判断されたことがあります。

3.解雇するまでに指導履歴を文書化

最後に②スキル項目に関する、本人への指導の文書化を図ります。文書化の目的は本人に事の重大性を気付かせることと、エビデンス(証拠)を残すことです。後日訴訟に発展した際に強力な効果を発揮します。

文書化して指導する場合、「これは就業規則第○条のけん責処分です」という旨を明記します。もちろん、その文書には本人の署名捺印と、改善目標・期限を書いてもらいます。

4.実際の解雇

ここまでのフローを経て、再三の改善指導にもかかわらず、改善が見られない場合に解雇処分にします。

仕事ができない、能力が低い社員を解雇するためには、少なくとも上記の流れを経る必要があります。

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労務専門コラム 解雇・懲戒処分編

>>①解雇の取扱いを労働基準法・労働契約法で考える (今このページです)
>>②職場外の行為、過去の事件に対する懲戒は可能?
>>③学歴詐称・政治活動・内部告発・所持品検査拒否と懲戒
>>④転勤・職種異動・出向・転籍命令の拒否
>>⑤合意退職または予告なき解雇の成立時期、不当な退職勧奨
>>⑥解雇権濫用法理とは何か?
>>⑦整理解雇が成立するための要件
>>⑧有期雇用契約と解雇権の行使
>>⑨セクハラ懲戒処分 妥当判決
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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)