解雇権が存在する根拠

使用者と労働者

1.就業規則の根拠を欠く解雇

K社に勤務する労働者Aは、反抗的態度・非協力的態度を示したため、解雇通知を受けました。

(本判例は法理論解説のために全体から一部分を切り抜いたものです)

東京高裁は、K社の解雇通知は就業規則の根拠を欠くとして無効とされました。

2.限定列挙された解雇事由

寿建築研究所事件
東京高裁 昭和53年6月20日判決

東京高裁の判決要旨は次のとおりです。

①K社の主張は、Aの行為が就業規則所定の解雇事由には当たらないが、
②労働契約を解除するに相当の理由があるとするものである
③しかしK社の就業規則における解雇事由は3つに限定されており、
その他の理由によっては解雇されないものと解すべきである
⑤よって当該解雇は就業規則の根拠を欠き、無効である

3.解雇事由は例示ではなく限定列挙

当判決は、当該解雇通知の後に発生した出来事により、解雇(2次解雇)が認められた事案です。

しかし、1次解雇では就業規則に列挙した解雇事由が、例示ではなく限定であるとして解雇が認められませんでした。

解雇事由の末尾には、「その他前各号に類する事由があった場合」という一般条項を設けるべきであるのは言うまでもなく、また可能な限り事由を列挙すべきであると言えます。

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解雇理由を欠く解雇

使用者と労働者

1.ユニオン・ショップ協定に基づく解雇

N社には、「労働組合を脱退し、または除名されたものは解雇する」とのユニオン・ショップ協定が締結されていました。ユニオン・ショップ協定とは、間接的に労働組合の組織拡大を求める仕組みです。

労働者Aは組合を除名されたため、N社に解雇されました。しかしAは除名自体が無効であるとして、解雇無効を争いました。最高裁は解雇通知が無効であるとして、破棄差し戻しました。

2.解雇権の濫用

日本食塩製造事件
最高裁 昭和50年4月25日第二小法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

①ユニオン・ショップ協定に基づく解雇は、労働者が組合に加入しないか、
②除名され資格を失った場合にのみ認められる。
③よって除名自体が無効である場合には、使用者は解雇義務を負わず、
④本件解雇は解雇権の濫用に当たり無効である

3.法的な根拠を欠く解雇

控訴審で、解雇は除名の有効無効とは無関係に成立するとしたのに対し、最高裁はその関連性を重視しました。

さらに根拠を欠く解雇を、解雇権の濫用と認定し、後の判例に影響を与えました。

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解雇権濫用法理を初めて明示

使用者と労働者

1.解雇事由に相当する解雇

K放送局に勤務するアナウンサーAは2週間に2度寝過ごし、ニュース放送に穴を開けました。

K放送局はAを普通解雇。しかし最高裁はこの解雇を認めませんでした。

2.解雇権濫用の判断基準

高知放送事件
最高裁 昭和52年1月31日第二小法廷判決

最高裁の判決要旨は次の通りです。

①就業規則に解雇事由が定められているにしても、
合理的理由、社会通念上相当性を欠く解雇は無効である
③K放送局の解雇は次の点で過酷であり、合理性を欠き、社会的相当性を欠く

【解雇における合理性と社会通念上相当性の判断基準】

・悪意または故意による事件かどうか
・他に責められるべき者はないか、またその者の懲戒程度はどうか
・当人に謝罪の意識はあるか
・当人が問題を回復すべくどのような努力をしたか
・引き起こした損害の程度はどの位か
・会社として問題防止の責任を果たしていたか
・虚偽報告があった場合、その心情を酌量する余地はあるか
・当人がこれまで同様の事件を引き起こしているか
・平素の勤務態度は良好か
・同様の事故で別の者が受けた懲戒の程度はどうか

3.解雇権濫用法理を最初に示した判決

現在労働契約法に引き継がれている、解雇権濫用法理解雇に合理性を欠き、社会通念上の相当性を欠く場合は、解雇権濫用にあたり無効とされます。

この解雇権濫用法理を最初に示したのが、この高知放送事件です。列挙されている項目の熟知が必要であると言えます。

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労務専門コラム 解雇・懲戒処分編

>>①解雇の取扱いを労働基準法・労働契約法で考える
>>②職場外の行為、過去の事件に対する懲戒は可能?
>>③学歴詐称・政治活動・内部告発・所持品検査拒否と懲戒
>>④転勤・職種異動・出向・転籍命令の拒否
>>⑤合意退職または予告なき解雇の成立時期、不当な退職勧奨
>>⑥解雇権濫用法理とは何か?(このページです)
>>⑦整理解雇が成立するための要件
>>⑧有期雇用契約と解雇権の行使
>>⑨セクハラ懲戒処分 妥当判決
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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)