求人広告とは異なる条件で雇用することの違法性

使用者と労働者

1.求人広告と異なる条件での採用

求人広告の内容と異なる給与格付けで採用されたA。

会社にその差額を請求し、認められた事件です。

2.契約締結過程の不法行為

日新火災海上保険事件
東京高裁 平成12年4月19日判決

判決要旨は次のとおりです。

求人広告の記載だけでは、個別労働契約の申込意思表示と見ることは出来ない。

しかし、求人広告「・・・同等の額をお約束」との記載、および説明会の「・・・と差別しない」旨の説明により、期待を抱いた労働者を保護する必要がある。よって会社側に、契約締結過程における不法行為を認める。

3.誇大広告を規制する手段がない、根本原因

判例中、民法上の「信義則」の問題が出てきます。

広告掲載は、母集団集めの目的が強いため、好条件であることを表示しがちです。

例:基本給18万~35万

実際の採用が18万円以上では行われないのに、例のような書き方をすることで、信義則違反の問題が出るでしょう。求人広告会社側の自主規制がほとんど働いていない今日では、過度な広告を規制する術すらないのが現実です。

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特定の思想をもった応募者を不採用とする権利

使用者と労働者

1.労働契約と憲法

過激な学生運動を理由に本採用を拒否された労働者。

会社には採用の自由がないのか?労働契約の締結に憲法(法の下の平等)が適用されるのか?

2.会社には採用の自由がある

三菱樹脂事件①
最高裁 昭和48年12月12日大法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

憲法は、私人間の契約を直接規律するものではない。会社には契約締結の自由があり、労働基準法3条(差別禁止)も、これは採用後の問題である。よって、採用前に雇い入れを拒否することに、違法性はない。

3.採用条件の客観的合理性の問題

判例が昭和48年、高度経済成長期であったことに注意が必要です。(私の大学在学中にも、憲法の講義で登場した有名な判例でした)

判決要旨が、憲法と労働基準法の適用範囲を明確に定めたものであるとしても、学生時代の活動についての聞き取りが、客観的な合理性を持つかどうかは、時代により変わります。

長期雇用システムが崩壊しつつある昨今では、もはや通用しない可能性がありますね。

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試用期間は解約件留保付雇用契約

使用者と労働者

1.試用期間中の解雇

前述の三菱樹脂事件の続きです。

試用期間中の解雇について、その違法性が争われ、会社側の主張が認められた事件です。

2.試用期間は解約件留保付雇用契約

三菱樹脂事件②
最高裁 昭和48年12月12日大法廷判決

最高裁の判決要旨は次のとおりです。

試用期間の位置づけは会社により千差万別であり、その会社の事実上の慣行により判断する必要があるが、一定の場合に雇用契約を解除できる、解約権留保付契約であると言うことができる。

その場合、通常の解雇よりも広い範囲での解雇の自由を認めることが出来る。

しかしその場合でも、客観的合理性・社会通念上相当な理由が必要であり、採用決定後の調査や勤務状態により、当初知ることが出来なかった事実を知る場合などが該当する。

労働者は学生運動の実態を秘匿して採用試験を受けたが、この秘匿自体が会社の管理職として重大な欠陥に該当するかどうかは、個別に判断する必要がある。

3.試用期間中解雇の理由にも着目

試用期間。この期間についての認識を改めましょう。

試用期間は判例の通り、会社に解約権が広く認められた期間、と言うことができますが、試用期間中解雇の理由が、客観的合理性を持ち、社会通念上相当であるとの理論武装が必要な点に注意が必要です。

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労務専門コラム 労働契約編

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)