世帯主であること、勤務地限定であることを理由とする待遇差

使用者と労働者

1.世帯主・勤務地による男女賃金差別

世帯主であるかどうか、勤務地限定を希望するかどうか。この2点により賃金形態に差を儲けたY社。

Yに勤務していた女性労働者から「男女差別」に当たるとして訴えられた事件です。

2.男女同一賃金の原則

山陽物産事件
東京地裁 平成6年6月16日判決

東京地裁の判決要旨は次のとおりです。

Y社は世帯主か否か、勤務地を限定するか否かによって賃金に差を設けていた
②しかしながら男子には非世帯主でも世帯主との差は適用しなかった
当時も将来も大多数の女子は非世帯主、勤務地限定となる
④採用手法も男子は営業職、女子は転勤なしの事務職だった
⑤以上は一方的に女子であることを理由に賃金差別をしている
⑥よって労動基準法4条に違反する

3.何が賃金格差の理由となっているのか?

【労働基準法 第4条】
「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取り扱いをしてはならない」

この規定のポイントは、女性であることを理由として、という点です。つまり、職務内容・能率・技能などを理由としていれば、賃金差を設けることは当然ながら可能です。

待遇の決定は、多分に経営者の判断が混じっているため、何が原因で賃金に差があるのか認定しにくいでしょう。本事件の判決でも、職務内容が理由なのか女性であることが理由なのかが争点となりました。結果、勤務地限定社員の本給が一定レベルで据え置きとなることに違法性を認めたのでした。

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男女雇用機会均等法以降の男女別雇用管理

使用者と労働者

1.男女別の雇用管理制度に対する訴え

N社では昭和61年に男女別雇用管理制度を導入。男性は総合職に、女性は一般職に区分しました。

その後平成11年に男女雇用機会均等法が成立。女性労働者達が差額賃金を求めて訴えを起こしました。

2.男女の労働環境と雇用機会均等法

野村證券事件
東京地裁 平成14年2月20日判決

東京地裁の判決要旨は次のとおりです。

①男女雇用機会均等法以前については、男女の労働環境の時代背景もあり違法性無し
②また男女により業務が異なっていたため、労基法上の賃金差別も無し
均等法施行後も制度を続けていたことについては、違法性を認める

3.男女の労働環境と時代背景

判決からは、男女雇用機会均等法の施行の前後で判断が分かれることが見て取れます。均等法施行前は、男女の労働環境の時代的な背景が強く、男性=総合職、女性=一般職という傾向が濃くありました。

その傾向を背景に、男女の採用に差を儲け、結果雇用管理でも差を儲け、職務内容が異なる。当然賃金が異なる。このような理屈で、男女の差が合理的に認められていました。均等法施行後は、入り口の採用時点での性別差別が禁止されるため、同様のロジックでは通用しなくなっている点に注意が必要です。

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有期雇用労働者であるという理由のみによる賃金差別

使用者と労働者

1.有期雇用労働者に対する賃金差別

女性労働者Aらは有期雇用のパートとして、M社に勤務していました。雇用期間は2ヶ月更新型。

しかし、実際の職務内容は女性正社員と何ら変わることがなく、長い者で25年有期雇用パートとして勤務していました。

労働者AらがM社を相手取り、正社員との賃金差額を求めて訴えを起こし、認められた事件です。

2.均等待遇の理念

丸子警報事件
長野地裁上田支部 平成8年3月15日判決

長野地裁の判決要旨は次のとおりです。

①同一労働同一賃金の基礎には、均等待遇の理念がある
②M社では、一定年数以上の有期雇用パートに正社員化の途を与えていない
③同じく、正社員同等の賃金形態も儲けていない
④M社の扱いは均等待遇の理念に違反する。

3.何によって賃金差があるのかに着目

パート労働法(平成19年)施行前の事件であることに注意が必要です。M社のパート労働者は、職種・作業内容・勤務時間・品質活動などすべての面で正社員との差がありませんでした。

にもかかわらず、賃金で差別が生じていたことに問題があったといえます。能力で差をつけることは当然出来ても、正規・非正規で長期間にわたり差をつけることが違法状態になる恐れがあることを示しています。

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パート社員に正社員と同等の待遇を認めなかったケース

使用者と労働者

1.パート労働法に基づく、同一価値労働同一賃金

女性問題の相談員として、嘱託職員として採用された労働者A。同社の他の正社員と、賃金体系が異なるという理由で訴えを起こしました。

しかし裁判所は、労働者Aの請求を認めませんでした。

2.同一(価値)労働に該当するかどうかの判定

京都市女性協会事件
大阪地裁 平成21年7月16日

大阪地裁の判決要旨は次のとおりです。

①会社側の取扱いがパート労働法違反と言えるためには、次の2点が必要である
  ・正規社員と非正規社員の労働(価値)が同一
  ・著しい賃金格差
②労働者Aの業務を行っている正規社員はいない
③労働者Aの採用条件、拘束、負担は正規社員より緩やかである
④よって、労働者Aと正規社員がパート労働法に違反しているとは言えない

3.職務内容・負担の違いを明確に

パート労働法9条では、「通常の労働者と同視すべき短時間労働者」について、差別的取り扱いが禁止されています。ほとんど正社員と同じ仕事をしている非正規労働者のことですね。

しかし判例では上記の規定を確認しつつも、原則どおり「職務内容・負担の違い」を理由に違法性を認めませんでした。実態に即した対応が功を奏した好例と言えるでしょうね。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)