労働法の当事者である労働者と使用者。判例は契約書面による形式的なものよりも、実態で判断する傾向が強くなっています。

本稿では、「請負」、「派遣」、「研修生」の3つをキーワードに、労働紛争の当事者についての考察を深めていきましょう。

 

労働者と請負・業務委託を判別する要素

使用者と労働者

1.業務請負者に労災認定は下されるか?

請負契約のトラックドライバーが労災認定を求めたが、退けられた判例です。

判例では労働者性を否定しています。表面上は請負契約でも実態判断で雇用契約と認定されるケースは多々ありますが、この判例は原則に立ち返り、諸々の項目を総合的に判断した上で、働者性を否定しました。

2.業務請負者の労働者性判断

横浜南労基署長(旭紙業)事件
最高裁 平成8年11月28日第一小法廷判決

高等裁判所で「労働者と請負者の中間形態であるため、当事者の意思を尊重した上で、労働者性なし」と判定しているのに対し、最高裁では、

事業者性、指揮監督、報酬支払方法(出来高)、公租公課負担から判断しても、労働者性なし」

として、その労働者性を否定しています。

3.業務請負(委託)と労働者の判断基準は?

最高裁が示した労働者性の判定基準一般的に労働者性の判定には、この他にも仕入・材料の負担、工具類の負担、拘束の態様などがあります。

もし御社で業務請負(委託)の方との契約がある場合、契約書面だけではなく実態を見直してみましょう。

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形式的で形骸化している派遣会社を経由すると・・・

使用者と労働者

1.派遣先の使用者としての地位

派遣先、派遣元、派遣労働者の関係性は?派遣社員Aは形式的な派遣元を通じて派遣先に勤務していました。

派遣先からAへの解雇通知等をめぐり、派遣先の使用者責任を問い、労働者側が勝った事件です。

2.脆弱・形式的な派遣元が介する場合、派遣先の使用者責任も

安田病院事件
最高裁 平成10年9月8日第三小法廷判決

最高裁の判例によると、

「労働契約の本質は、使用者が労働者を指揮命令・監督することである。よって形式的ではなく実質的に使用従属関係を判断しなければならない。」

とし、仲介する派遣元企業があったとしても、その存在が脆弱形式的に過ぎないため、派遣先を雇用主と認定しました。結果、派遣先は派遣労働者に対して、雇用主としての使用者責任を問われたのでした。

3.派遣先の使用者責任に注意

労務管理上、節税対策上、グループ内人材派遣会社を保有している企業が多い昨今。

派遣会社が形式的なものに過ぎない場合、派遣先が使用者としての責任を回避することが出来ないことに注意が必要です。

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派遣先の雇用主責任が問われなかった例

使用者と労働者

1.派遣社員と派遣先の雇用関係

先の「安田病院事件」と異なる判例です。派遣社員が派遣先に対して、雇用主としての責任を問い、認められなかった判例です。

本来、派遣社員と派遣先の間には直接の雇用関係は生じません。判例では、一定の条件下では、派遣社員と派遣先に間に直接の雇用関係が生じるとしながらも、それを認めませんでした。

2.独立した事業体である派遣元

サガテレビ事件
福岡高裁 昭和58年6月7日判決

福岡高裁が示した基準はおよそ以下の通りです。

①正社員と派遣社員の仕事に差がないこと
②事実上の使用従属関係にあること
③派遣会社が独自性、独立性を欠いていること
④派遣先が派遣元と派遣社員の労働条件を実質上決めていること

事例では特に③④について、派遣元は独立した事業体であり、派遣社員の労働条件を決めうる立場にある、として派遣先の使用者責任を認めませんでした。

3.労働者派遣のあり様に注意

労働市場の流動化が激しい昨今。

労働者派遣は、企業側・労働者側の意図が合致すればこの上な便利な仕組みであると言えますが、単に派遣先側の労務管理、公租公課逃れだけが目的の場合、仕組み自体を否定される場合があることに注意が必要ですね。

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研修生なのに労働者だとされた

使用者と労働者

1.研修医の労働者性

研修医(研修生)はそもそも労働者に当たるのか?

医科大の研修医の労働者性が争われ、認められた判例です。

2.他人の指揮命令下で労働しているか

関西医科大学研修医事件
最高裁 平成17年6月3日第二小法廷判決

最高裁判例によると、労働基準法の労働者性判断で最も重視されるのは、

他人の指揮命令下での労務提供です。

医科大での研修は、教育的側面があるとは言え、医療行為に従事することが予定されています。その際、病院の指揮命令下で労務提供を行うことが避けられないため、労働者であると判断されました。

さらに、「奨学金」名目で金員を支払っていたのに、所得税法上の給与としての源泉徴収を行っていたことも、労働者性の判断に有利となりました。

3.労働実態のあり様を見直す

請負・派遣・研修生は、就業先との表面的な関係は労働契約ではありませんが、判例では実質を重視する傾向にあります。

形式的な契約書面と平行して、実態のあり様を見直さなければいけませんね。

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労務専門コラム 労働契約編

>>①請負・派遣・研修生は労働者か?(今このページです)
>>②派遣労働者の正社員転換
>>③基本的人権は労働契約に優先するか?
>>④求人広告・採用・試用期間をめぐるトラブル
>>⑤労働基準法に違反する労働契約
>>⑥男女間の賃金・処遇の差別
>>⑦その業務命令は違法?
>>⑧契約社員 5年更新後は無期雇用へ自動転換?

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)