短期離職した社員に研修費用を返還させられるか?

使用者と労働者

1.留学費用の返還

会社の費用負担で留学し、帰国後短期(2年5ヶ月)で離職した労働者A。

会社が労働者Aに対して、留学費用の返還を求め、認められた事件です。

2.留学費用の負担が労働契約の一部となるか?

長谷工コーポレーション事件
東京地裁 平成9年5月26日判決

東京地裁が留学費用の返還を認めたのは次の理由によります。

①留学は社員の自由意志であり、業務命令ではなかった。
②学部の選択も本人の自由意志に委ねられた。
③留学は社員にとって、有益な経験・資格となる。
④したがって、留学を業務と見ることはできない。
会社とAの契約は、返還特約付の金銭消費貸借契約である。
⑥したがって、労働基準法16条にも違反しない。

【労働基準法16条】
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償を予定する契約をしてはならない」

3.費用返還の際の判断材料に

会社が従業員の資格取得やスキルアップのための費用を負担する。人事施策上、よく行われることです。また財務上の理由で、一定期間内の離職の場合、負担額の返還を求めることも行われています。

判例では、留学費用が労働契約ではないと認められる場合の根拠を示しています。返還規定を設ける際の、判断材料となりますね。

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会社の承認なく選挙立候補しても懲戒解雇は行き過ぎ

使用者と労働者

1.会社の承認なき立候補・公職就任

就業規則の規定に違反して、市議会議員に立候補し当選した労働者A。就業規則には、「会社の承認」が必要であると明記されていました。

労働者Aは懲戒解雇されましたが、納得せず提訴。会社の処分(就業規則)が違法無効とされた事件です

2.公職就任、即懲戒解雇は労基法違反

十和田観光電鉄事件
最高裁 昭和38年6月21日

最高裁が会社の上告を棄却したのは次の理由によります。

①労働基準法7条により、労働者には公の職務遂行の権利が保証されている。
②立候補を届出制ではなく、承認制にし、違反者を懲戒解雇にするのは、労働基準法7条に違反する。
③ただし、公職就任が業務を阻害する場合、普通解雇の余地はある。

3.公職就任は普通解雇で

判例ではストレートに、労働基準法7条違反を告げています。と、同時に普通解雇の余地を明らかにしています。

元々、一定基準の労務を提供することを定めた労働契約がベースに存在し、その履行が出来ない場合の措置。懲戒解雇ではなく普通解雇で検討せよという趣旨です。解雇の種類によって、退職金条件が異なる場合に注意が必要ですね。

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政治信条による差別

使用者と労働者

1.政治信条による待遇の差別

共産党員であることを理由として、賃金・職位で差別を受け続けた労働者。

差別を受けなければ得られたであろう賃金を請求し、一部認められた事件です。

2.処遇差別は違法行為

東京電力(千葉)事件
千葉地裁 平成6年5月23日判決

千葉地裁が労働者側の請求を一部認めた理由は次の通りです。

①労働基準法3条では政治信条による労働条件の差別を禁じている
②会社による当該労働者への差別処遇は違法行為である。
③しかし処遇の全ての理由が労働者らの政治信条とは言えず、能力査定上の理由も含まれる

3.能力査定を正しく行うことの意義

労働基準法3条に、国籍・信条・社会的身分を理由とした労働条件差別の禁止が定められている以上、共産党支持者への待遇差別を行うことは明らかに違法と言えます。

しかし、労働者らが求めたのは、同期同学歴入社の中位クラスとの差。千葉地裁は、この同期同学歴入社の中位クラスとの差を基準としながらも、会社側にその差を縮小するための合理的理由を立証させました。

判決では、労働者らの能力査定上の理由も考慮され、同期同学歴入社の中位クラスとの差の3割を認めるに留まりました。日頃の人事査定を正しく行い、記録として保管していたことの成果といえるでしょう。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)