労災保険での通勤の定義とは?労災保険が適用される「通勤」と適用されない「通勤」の違いは?

社内外で発生する事故に対する、正しい初動が従業員を安心させ、人事部の信用力を高めます。社会保険労務士が通勤災害について詳しく解説します。

 

【このページの目次】

1.なぜここまで庶民的なのか!?労災保険法の通勤災害
  1-1.労災保険の制度をザクっと
  1-2.業務災害と通勤災害

2.通勤災害は3パターンの理解から
  2-1.通勤①家と会社の往復
  2-2.通勤②ダブルワークの2社目への移動
  2-3.通勤③単身赴任者の帰省往復

3.通勤災害のお茶目なルール「寄り道」
  3-1.不良生徒の寄り道(居酒屋編)
  3-2.まじめ生徒の寄り道(スーパー編)
  3-3.誰にでも起こり得る寄り道(のど乾いた編)

4.通勤災害のまとめ

 

1.なぜここまで庶民的なのか!?労災保険法の通勤災害

1-1.労災保険の制度をザクっと

社労士という仕事上、「労災」は避けては通れないカテゴリーです。

日本の労災保険の制度をザクっとご説明しますと、これは会社でかかる4種の社会保険(厚生年金保険、健康保険、雇用保険、労災保険)の一つであるわけです。

他の3つ保険との違いはズバリ「個別に被保険者管理がされない」という点です。

つまり労働者Aさんが労災保険に入っている証明書はないわけです。個別で被保険者の加入手続きをすることがないのですから。

1-2.業務災害と通勤災害

「労災」と言われて思いつくのが、仕事中の事故に起因する怪我。これを「業務災害」と呼びます。最近では外傷だけではなく、長時間労働によるうつ病など精神疾患なども業務労災として認められていますね。

一方でみなさん、通勤途中の事故による怪我も労災の対象になることをご存知ですか?このコラムでは人事部担当者向けに、「通勤災害」の深堀り研究を試みます。

日本の通勤災害は非常に庶民的なシチュエーションを想定していまして、例えば真っすぐ帰宅している途中の事故は労災の対象に認定されるが、寄り道したらNGだとか、寄り道先から帰宅ルートへ復帰するときで労災対象と対象外を分けるとか。

こんなことをこのコラムで研究しようというわけです。相当マニアックですが、ぜひお付き合いください。

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2.通勤災害は3パターンの理解から

2-1.通勤①家と会社の往復

まず初めに通勤災害の大原則ですが、家と会社の往復移動中の災害が典型的なパターンです。

「会社」の定義には異存ないことと思いますが、「家」の定義はあいまいですね。単身赴任者の場合の二つの住居や、たまたま残業で終電を逃した場合のホテルなどの場合はどうなるのでしょう?

通達によると、この「住居」の定義は比較的広く捉えられており、合理性で判断されます。例えば、

・遠距離通勤が理由で、家族と離れて単身居住するアパートは住居である
・残業、自然災害のためにやむを得ず臨時にホテルに泊まった場合のホテルは住居である

など。ということから考えると、遅くまで飲み終電を逃してホテルに泊まろうとして、その道中事故にあった場合などは、労災の対象外ですね。

 

2-2.通勤②ダブルワークの2社目への移動

パート労働の方などが、1社目の勤務を終えて、2社目に移動する場合を指します。

例えば8時から15時をA社で勤務し、16時から別のB社での勤務するために移動するようなケースです。

この場合、確かに2-1でいう「家」からの通勤ではありませんが、A社、B社ともに労災保険の適用事業所であれば、通勤災害の適用対象になります。

もちろん、B社への移動中の事故ですから、A社ではなくB社の労災保険が適用されます。

 

2-3.通勤③単身赴任者の帰省往復

単身赴任者の場合、家族が住む本宅と、単身で住む別宅があるわけです。ケースの3つめは、本宅と別宅の間の移動中の事故です。

直接職場へ向かうわけではありませんが、これも「通勤の一種」と考えられ、通勤災害の対象となります。ここで定義が必要なのが、「単身赴任者」と「家族」ですね。 

【単身赴任者】
転任によって、通勤時間が増大し、次の家族と別居する者

【家族】
①要介護状態にある両親を介護する配偶者
②学校在学中の子を養育する配偶者
③仕事を持つ配偶者
④要介護状態にある子
⑤学校在学中の子
⑥要介護状態にある両親

 

ということで、例えば未婚者と健康な両親の3人暮らしの場合や、子が成人していて、専業主婦との2人暮らしの場合での単身赴任は該当しないことになります。

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3.通勤災害のお茶目なルール「寄り道」

ここまで通勤災害が適用される3つのパターンを順追ってみてきました。

ここでは、仮にその3つのパターンに該当しても、例外的に通勤災害の適用から外れてしまう、ちょっとお茶目なルールを説明します。

 

3-1.不良生徒の寄り道(居酒屋編)

企業戦士のアフターファイブ。同僚や友人、上司や取引先との飲食を含むプライベートな寄り道。労災保険ではこの寄り道のことを「逸脱・中断」と呼び、通勤災害の提要から外します。

 立ち飲み居酒屋での労災2

 

 

会社を一歩出ると、そこは私的空間。プライベートな行動中の事故までを通勤災害認定することを防ぐ施策ですね。

このケースで通勤災害認定できるケースは、居酒屋へ向かう途中の、本来の通勤ルートのみ

したがって、寄り道すると次の①~④の途中の、すべての事故が通勤災害から外れてしまいます。

【逸脱・中断をすることで通勤災害から外れるルート】
①本来の通勤ルートを逸れて、居酒屋へ向かうルート
②居酒屋内
③居酒屋から本来の通勤ルートへ戻るルート
④帰宅するまでの本来の通勤ルート

昔、よく周りにいました。飲んでコケて青あざ作っている同僚が・・・。

 

3-2.まじめ生徒の寄り道(スーパー編)

居酒屋、カラオケなどアミューズメント系での寄り道をした場合、「本来の通勤ルート」を逸れた時点で、通勤災害の適用から外れることは3-1で理解できましたね。

次は、食材や日用品など、毎日の生活に必要不可欠な買い物をする場合のケースです。相当庶民的な事例を想定していますね。

立ち飲み居酒屋での労災3

 

この場合、確かに「本来の通勤ルート」を逸れた時点で、いったん通勤災害の適用から外れはしますが、元のルート復帰した後は、通勤災害の対象に戻ります。この点が3-1との違いです。

この規定が適用される「真面目な寄り道」には、日用品の買い物のほかに、選挙投票、通院、親の介護などが含まれています。

注意すべきは、この場合であっても、本来の通勤ルートを逸れている間は、通勤災害の適用から外れている点ですね。

 

3-3.誰にでも起こり得る寄り道(のど乾いた編)

最後に、たとえ「本来の通勤ルート」を逸れて寄り道をしても、問題なく完全に通勤災害の適用を受けるケースをご紹介します。労災保険法では、「些細な行為」と呼ばれています。

立ち飲み居酒屋での労災4

 

【平成18年3月31日 基発0331042号による「些細な行為」の例】
①経路近くの公衆トイレの利用
②経路近くの公園での休憩
③駅構内でのジュース立ち飲み
④経路上の店でのどの渇きを癒すためのお茶、ビール
 (ただし、長時間腰を落ちつけると、通勤災害から外れる)
⑤経路上の手相見、人相見
 (ただし、長時間みてもらうと、通勤災害から外れる)

 

ということは、南海天下茶屋の駅前にあるような立ち飲み居酒屋で10分ビールを飲む行為は、労災保険法上「些細な行為」に該当して、通勤災害の対象になるのではないか!?

 

ということで、労働基準監督署に聞いてみました。

 

井ノ上「通勤災害の適用除外の例外として些細な行為というのがありますね。これは通勤ルートの逸脱・中断に該当せず、通勤災害の対象になるという趣旨ですね。」

監督署「その通りです。」

井ノ上「通達によりますと、ビールを飲んでも、それが些細な行為に該当すれば、通勤災害になるという事でしょうか?」

監督署「そういうことになります。」

井ノ上「例えば大阪には、立ち飲み居酒屋がたくさんありますが、そこで喉の渇きを潤す程度のビールを飲んだ場合、これは些細な行為に該当する余地があるという理解でよろしいですか?」

監督署「・・・・・。何分くらいですか?」

井ノ上「まぁ、立ち飲み居酒屋ですから、5分~10分くらいですかね。」

監督署「・・・・・。ビール1本ですか?」

井ノ上「まぁそうですね。喉の渇きを潤すのが目的ですから、ビール1本ですね。」

監督署「・・・・・。些細な行為ですね。

 

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4.通勤災害のまとめ

通勤途中の事故を補償する労災保険。仕事中と違って、いろいろなシチュエーションが想定されます。

ポイントをまとめると、次のようになります。

【通勤災害のポイント】
①本来の通勤ルートと事故にあった時の通勤ルートの違い
②仮に寄り道をしていた場合、その行先
③その行先で行った、または行おうとしていた行動

人事部担当者は、これらのポイントをきちんと整理して初動対応することが必要ですね。

 

人事部の創設、強化が必要な場合はいつでもお声がけください。

【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)