私「ほ~、趣味は音楽ですか?どんな音楽が好きですか?」

応募者「尾崎豊です。」

私「懐かしいね~。どの曲が好き?

 

「宗教」を面接で聞いてはいけないのなら、若者の教祖と呼ばれた尾崎豊は宗教に該当し、面接で話題にしてはいけないのでは!?そもそも尾崎は宗教か!?

という謎にさいなまれ、夜も眠れなくなりましたのでコラムを書くことにしました。 

 

【このページの目次】

1.それは単なる啓もうキャンペーンではない
  1-1.関西人は道の話がお好き
  1-2.職業安定法にちゃんと書いてある
  1-3.厚労省からザックリと告示されている
  1-4.労働局は具体的なNG質問事例にも踏み込んでいる

2.罰則の規定を調べてみた
  2-1.違反した場合には指導されることも書いてある
  2-2.改善命令に無視したら懲役か罰金だ

3.労働局が示す具体的なNG質問例を検証してみた
  3-1.面接で本当に知りたいことはそんなことじゃない
  3-2.採用現場で憲法違反!?
  3-3.疑問に思ったから労働局に聞いてみた
  3-4.まとめ

1.それは単なる啓もうキャンペーンではない

1-1.関西人は道の話がお好き 

関西人は道の話が好きです。

特に奈良出身者(私など)は国道24号線に対する愛着が異常に強い。

私「おぉっ!あなた奈良県橿原市の出身ですか?私もなんですよ!私××中学ですわ!

  ○○町って駅(大和八木駅のこと)の北側でした?」

応募者「そうです。ニーヨン(国道24号線のこと)の右手です。」

私「はいはいはいはい! 昔、○○があった辺りの!」

応募者「そうです。○○からもう少し××中学寄りです」

私「はいはいはいはい!! 角の△△タバコ屋、同級生ですわ!」

 

(この場合の「はいはいはいはい」は抑揚を付けてリズミカルにお読み下さい)

 

 面接で道の質問

 

さて、この会話、仮に応募者が労働局に苦情通報した場合、私(会社)に対する指導が入る可能性が極めて高い。なぜって?それは法違反だからです。からです。

1-2.職業安定法にちゃんと書いてある

厚労省が言う「面接で聞いていけないこと」

これは単なる啓もうキャンペーンではありません。法律にちゃんと書いてあります。ということで、まずは法律のチェックから。

 

【職業安定法 第5条の4 ※一部読替え意訳】

労働者の募集を行う者は、求職者等の個人情報を、必要な範囲内で収集・保管・使用しなければならない。

 

この条文が全ての根拠ですね。んでは、ここで言う「必要な範囲内で」とは一体何だ!?

1-3.厚労省がザックリと告示している

職業安定法だけでは、具体的にどんな質問がNGなのか良く分からないですね。

そこで厚生労働省からこんな告示が出ています。

 

【平成 11 年労働省告示第141号 ※一部読替え意訳】

労働者の募集を行う者は、次に掲げる個人情報を収集してはならない。

イ:人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地
 (その他社会的差別の原因となるおそれのある事項 )

ロ: 思想及び信条

ハ: 労働組合への加入状況

 

ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りでない

 

ということで、

「あなたの国籍は?何人(何族)ですか?」

などの質問は当然NGではありますが、上記の「ただし~」以下に基づくと、例えば世界万博の各国イベントブースで勤務するスタッフに、同国人を充てる必要がある場合には、質問の趣旨をよく説明したうえで、

「あなたの国籍は?何人(何族)ですか?」

と質問することも、合法的となる余地があるわけです。

 

国籍についての質問

 

1-4.労働局は具体的なNG質問事例にも踏み込んでいる

さらに厚労省の支部である各地域の労働局では、不適切な質問例として、ホームページ上にNG質問集を公開しています。

【労働局が考える不適切な質問例 ※抜粋】

・お父さんの出身地はどこですか?
・お家は国道○○号線のどちら側ですか? (あ・・・)
・お父さんの職業は何ですか?
・何新聞を読んでいますか?
・政治や政党に関心がありますか?

(出所 大阪労働局ホームページ)

 

ということで、関西人の皆さまへ。いくら道が好きとは言っても、採用面接での道の話題は程々に。(本籍、出生地に関する個人情報収集、と捉えられる可能性アリ)

 

2.罰則の規定を調べてみた

ここからは罰則のお話です。法規制の問題と罰則は表裏一体。社内でコンプライアンスを推進する場合は、罰則規定についても併せてチェックを行いましょう。 

法律の規制と罰則

 

2-1.違反した場合には指導されることが書いてある

職安法の場合、いきなり罰則が適用されるわけではなく、まずは指導と助言です。

 

【職業安定法 第48条の2 指導及び助言 ※一部読替え意訳】

 厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対し、その業務の適正な運営を確保するために必要な指導及び助言をすることができる。

 

 フムフム。で、さらにヤバイ状態が続いた場合は、指導や助言という生易しいものではなく、改善命令を出します。

 

【職業安定法 第48条の3 改善命令 ※一部読替え意訳】

厚生労働大臣は、事業者がその業務に関しこの法律の規定又はこれに基づく命令の規定に違反した場合において、当該業務の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは、これらの者に対し、当該業務の運営を改善するために必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。

 

さぁ改善命令が出た。大変だ。

「そんな命令、糞くらえ!」と無視すると・・・

 

2-2.改善命令に無視したら懲役か罰金だ

改善命令を無視すると、ついに罰則が適用されるわけです。

 

【職業安定法 第65条7項】

法第48条の3(改善命令)に従わないものは、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

 

これでようやく、法律の全体像(規制と罰則)が理解できましたね。

指導助言改善命令罰則

 

3.労働局が示す具体的なNG質問例を検証してみた

しかし人事・採用に関与する身としては、労働局の示すNG質問例には、いささか腑に落ちぬ点がある。

先にご紹介した労働局のNG質問例には、他に次のような質問例も含まれているからです。

 

【腑に落ちないNG質問例】

・あなたの信条としている言葉は何ですか?
・尊敬する人物は誰ですか?
・将来どんな人になりたいと思いますか?
・あなたの愛読書は?

 

3-1.面接で本当に知りたいことはそんなことじゃない

出身地(国籍・本籍・地域)や宗教(思想・信条)に関する話題を面接でNGとするのは分かります。しかし、

 

・あなたの信条としている言葉は何ですか?
・尊敬する人物は誰ですか?
・将来どんな人になりたいと思いますか?
・あなたの愛読書は?

 

までもNG質問としてしまうのは行き過ぎではないでしょうか。

厚労省は「思想ではなく能力で採用選考せよ」というスタンスなのでしょうが、中小企業においては、能力よりも思想の方がはるかに重要なのです。

能力は伸ばせますが、経営理念とズレが生じている内面的思想を変えることは、まずもって不可能ですから。

厚労省は中小企業の採用実情を、机上の空論で談じていないでしょうか?

 

3-2.採用現場で憲法違反!?

なぜ厚労省がこのような発想に至り、NG質問集まで出しているのか。

その趣旨を知りたくて、労働局のサイト内をよくよく観察すると、次のような記述を発見しました。

 

【厚労省の考えの根拠】

思想・信条や宗教、支持する政党、人生観などは、信教の自由、思想・信条の自由など、憲法で保障されている個人の自由権に属することがらです。それを採用選考に持ち込むことは、基本的人権を侵すことであり、厳に慎むべきことです。

 

ん!!!???

面接で思想・信条について聞くことが、憲法違反!?

その解釈はおかしいぞ!

憲法解釈の基本中の基本ともいうべき三菱樹脂事件では、明確な判例が出ているはず。

 

【三菱樹脂事件 最高裁判 昭和44年12月12日】

憲法14条(法の下の平等)や19条(思想の自由)は、もっぱら国または地方公共団体と個人の関係を規律するもので、私人相互の関係を直接規律することを予定したものではない

 

ここで言う私人とは、例えば一般個人や私企業を指します。

つまり、企業の面接現場での質問が不適切だからと言って、それが憲法違反だという議論に発展する余地は、そもそもないのです。

 

3-3.疑問に思ったから労働局に聞いてみた

ということで、労働局に質問してみました。

 

井ノ上「貴庁のサイトには面接での不適切な質問事例がありますね。その意図はよく理解できますが、根拠を憲法違反に求めるのは、不適切ではないですか?(合わせて判例の説明)」

労働局「・・・・少々お待ちください(1分位経つ)」

労働局「これは、面接をする企業の憲法違反を問題視するというよりも、厚労省の啓もう活動が、憲法の精神に基づいている、ということを言いたいのです。」

井ノ上「なるほど。でもホームページからでは、そのようには読めませんね。」

労働局「・・・そうですね。」

井ノ上「誤解を生まないためにも、変えた方が良いかもしれませんね。」

労働局「・・・そうですね。」

 

単なるイチャモンクレーマーと思われては嫌なので、別の質問に移りました。

 

井ノ上「ところで、なぜ尊敬する人物を聞くことがNGなのでしょうか?」

労働局「・・・。お待ちください。(1分)」

労働局「お待たせしました。宗教を信奉する人の中には、尊敬する人物を問われた場合、信仰に基づいた、嘘偽りない回答をすべき、と考えている人がいるからです。結果的にであっても、そのような個人の思想信条に関する個人情報を得ることは、職安法で禁じられているからです。」

井ノ上「なるほど~。そういうことですか。将来の夢についての質問をした場合にも、信仰に基づいた個人情報を得てしまう可能性がある、ということですね。」

労働局「その通りです。」

 

そうか。確かに「尊敬する人物」や「将来の夢」を聞く事自体が職安法で禁止されるわけではなかった。職安法で禁止しているのは、思想信条に関する個人情報を収集することでした。 

「尊敬する人物」や「将来の夢」を問われて、信仰に基づいて、嘘偽りのない、宗教的な回答をすべき、と考える人がいる。その回答には、職安法が禁じる、思想信条に関する個人情報に当たる可能性がある。なるほど。そういう二段論法か。

 

尊敬する人物についての質問

 

ではそもそも「思想信条や宗教」に定義はあるのだろうか?

重ねて質問してみました。

 

井ノ上「現代の音楽家の中には、歌詞の中に強い社会的メッセージを含む人がいますね。場合によっては、宗教とも取れるような。」

労働局「あぁ、確かにありますね。」

井ノ上「若者の教祖と呼ばれた尾崎豊さんとか。」

労働局「(笑)」

井ノ上「ということは、応募者が『趣味は音楽鑑賞です』と言ったときに、『どんな音楽が好きですか?』と問うのも、考えものですね。」

労働局「場合によっては、具合が悪いですね。」

井ノ上「ちなみに、長渕剛矢沢永吉の話題も具合悪いですか?そっちの面で。」

労働局「(笑) 具合悪い場合もありますね。」

 

ちなみに「宗教」の明確な定義は、どの法律にも記載がありませんが、宗教法人の設立要件から自分なり考えたことがありますので、とりあえず私見を。

 

【井ノ上剛が宗教法人法から類推する宗教の定義】

①超越した存在(神仏など)を認める
②教義がある
③信者を増やしまたは教化する活動を伴う

 

面接で尾崎を話題にすると、懲役刑を科されるかもしれない

 

 

3-4.まとめ

面接での質問。職業安定法では、これを「個人情報の収集」と位置付けます。

思想信条に関する質問は、宗教を信奉する人にとっては、心に偽りなく回答すべきであると考える人がいる。そこで得た回答は思想信条に関する個人情報に当たる。だからNGなのです。

 

尊敬する人物についての質問

 

【場合によっては思想信条に関する個人情報を収集してしまう質問例】

・あなたの信条としている言葉は何ですか?
・尊敬する人物は誰ですか?
・将来どんな人になりたいと思いますか?
・あなたの愛読書は?

 

面接官はこの点に留意して、質問内容を吟味すべきなのですね。

ちなみに繰り返しになりますが、「NG質問」=「罰則」ではなく、その途中に指導・助言や改善命令が発令されますので、ひとまずはご安心を。

 

今回のコラムでは、

「どうやって経営理念や社の思想に合う人物を、面接で見抜くか」

という点には触れることができませんでしたので、いつかコラムを書きたいと思います。

 

ということで人事労務顧問、人事部強化でお悩み際は当事務所へご相談を。

普通の社労士とはちょっと違うスタンスで御社をサポートします。

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【この記事の執筆者】

井ノ上 剛(いのうえ ごう)
◆1975年生 奈良県立畝傍高校卒 / 同志社大学法学部卒
◆社会保険労務士、行政書士、奈良県橿原市議会議員
タスクマン合同法務事務所 代表
 〒542-0066 大阪市中央区瓦屋町3-7-3イースマイルビル
 (電話)06-7739-2538 
(投稿日時点の法制度に基づき執筆しています。)